第一回 森友事件の概要と課題
今回から六回に分け、「森友 新たなる第三の疑惑」を詳説する。
さて、森友事件の発端は、 平成29年2月8日(2017年2月8日)、豊中市の国有地が格安で払い下げられていた事実を、この問題を早くから注視していた豊中市議の木村真氏らが、市民団体として記者会見で明らかにし、テレビ大阪、NHKそして翌日2月9日に朝日新聞が社会面で大きく報じ たことから始まる。(朝日は独自に登記簿謄本を取得し、籠池理事長(当時)に契約価格が1億3400万であったことを確認している。)
国会でも取り上げられ、同年2月17日の 衆院予算委員会で、民進党(当時)衆院議員・福島伸享が質問に立ち、森友学園の約8億円の値引きの根拠となるゴミの撤去について当時の理財局長・佐川宣寿に対し「ダンプカー4000台分ぐらい」になるはずと指摘。「4000台のダンプカーが行き交いすれば、当然やっていることはわかりますけれども、実際に工事をやったかどうかは確認されておりますか」と質した。
それに対し、「適正な価格で売っている」が佐川氏の答弁だった。また同日、安倍晋三首相は、「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」と言明。
このゴミの存在を前提に、後日首相は「ゴミがあるんだから8億円の値引きは当然」と野党の質問を退け、勾留中でまだ司法判断の出ていない前森友学園理事長・籠池泰典に「詐欺を働く人物」とし、「こういう人だったから妻はだまされてしまったんだろう」との答弁もしている。
翌年4月4日のNHKは、前年2月20日、つまり予算委員会の3日後、財務省理財局の職員が森友学園に電話で「トラックを何千台も使ってゴミを撤去したと言ってほしい」と要求、学園側は「事実と違うのでその説明はできない」とはねつけていたいきさつを大阪地検がつかんでいると報じている。
すなわち平成27年2月17日の佐川氏答弁、そして連なる安倍首相による「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」「ゴミがあるんだから8億円の値引きは当然」といった答弁の根拠が崩壊することになる。
既に多くの大手マスコミによっても明らかにされているとおり、この日を基点として、膨大な公文書がストーリー(安倍首相や昭恵夫人らが関与していないという)に沿って改ざんされ(財務省は認めていない)、そのなかでそれらの改ざんを指示された近畿財務局の職員1名が後に亡くなる経緯となっている。(この職員が亡くなっている事実こそが、本紙調査の背景。)
平成28年2月9日の朝日新聞報道から始まった国有地格安払い下げ疑惑は、その後、関連報道や国会での追及が始まり、翌年3月2日には再び朝日新聞が決裁文書の改ざんの疑いを報じ、多くのテレビや新聞等のメディアが疑惑を報じ、加えて大阪地検特捜部が市民団体からの告発を受理し、捜査に乗り出すなど本件事件解明への期待が高まったが、特捜部は平成30年5月31日 、佐川氏および財務省職員ら計38人を不起訴処分とした。
特捜部長は異例の会見を開き説明を行ったが、個別の捜査の内容にはお答えできないという解明には程遠いものとなり、期待された事件解明には至らなかった。しかしながら デジタルフォレンジック等の技術を駆使し、改ざんされたとされる決裁文書を復元し、その改ざん事実を示したことは、その後の財務省による公文書公開に至る端緒となった。
本件事件については、メールや音声データ並びに関係者の証言等々が多くの新聞やテレビ報道でなされたが、どれもが断片的に終始し、それらは疑惑に止まり、結果として国民の7割から8割が真相究明を望むこととなった。
本紙は、新しい事実を追う前に、足元に積み上げられた膨大な公文書や国会提出資料を丹念に読み込み、そこで得られた事実を地道な取材によって追行し、その内容をひとつひとつ確認して行くという労働集約的な作業を行った。
8億のごみの有り無しや改ざんの有り無しが大きく世論を賑わせたが、本件の本質は土地の賃貸借契約(事業用定期借地権)であって、甲(国)と乙(森友学園)の争いは同契約に帰し、何が契約上の問題であったのか、想定しえない埋設物発生の事実はあったのか、それは物証事実を伴っているかが争点として調査を進めた。
なぜなら9億の土地をただ同然にするには、本件土地に係る貸付合意書を覆すような事実が必要であるが、そうであるなら貸付合意書記載の土地調査報告書等の事実は厳格に精査されなければならず、また、同契約に基づいて施工された土地改良工事の内容事実も精査されなければ、前記「想定しえない埋設物の発生の事実」は検証できないという結論になる。
そして本件土地取引に係る貸付合意書等は公文書である。公文書はそもそも改ざんされるものではなく、そのまま厳格に保管される歴史的文書(総務省係官)であって、その改ざんや虚偽作成は重罪となる。また、産業廃棄物処理法上のマニフェストも同様に公文書である。
本紙は、そのような法的立場に依拠し、公文書に記載された内容が事実に照らして相当であるか否かという検証方法を採用し、貸付契約、貸付契約記載の土地調査報告書、不動産鑑定評価書、不動産登記簿謄本、産業廃棄物マニフェスト( 交付等状況報告書及び管理票)、財務省公開文書(有益費支払いに関する三者合意書、応接録、工事完了報告書等)、報告写真・図画、算定見積、売払決議書、売買契約書等を丹念に精査し、それらに基づく追行調査を行った。
貸付契約には、5本の本件土地調査報告書が明記され、それらを乙(森友学園)が了承すると合意されている。3mの記載はなく、OA301構造調査のレーダー探査はGL-3mの範囲で実施されたが、探査結果において埋設物があると判断された場所のうち68箇所を実際に試掘し、地山深度(地下埋設物がなくなる深度)まで掘削調査を行っている。OA301土壌汚染深度調査では、柱状ボーリングも行っており、地点によっては3.5m程度まで埋設物があることが報告されている。
なおこれらの事実を踏まえたうえで、すべての柱状ボーリングにおいて、概ね3m以深は、どれもが沖積層を示しており、これらの事実は乙(森友学園)及び甲(国)に共有された土地性状である。
乙(森友学園)は、甲(国)との貸付契約締結後、校舎建設に支障がある土壌汚染や地下埋設物を撤去するため、平成27年7月29日付で本件土地改良工事をN社に発注した。N社は、平成27年10月16日付で土壌汚染対策工事を完了、平成27年11月24日には近畿財務局と大阪航空局が土壌汚染改良及び地下埋設物撤去の現地確認を実施、平成27年12月1日には工事完了報告が乙(森友学園)に通知されている。
さて、建設系廃棄物の事業者は元請であり、土地改良工事の場合はN社である。産業廃棄物処理法上義務付けられている管理票には、事業所から排出されたすべての産業廃棄物の排出・運搬・中間処理・処分に係る経過及び計量票が付表されており、その事実を7票から完全に追うことができる。(法令)
本紙取材班は、N社より報告された本件土地改良工事報告書(決裁文書(公文書))並びに産廃マニフェスト(交付等状況報告書(公文書)及び管理票(5年保管義務))に報告されている本件土地改良工事の内容を丹念に精査し、取材を踏まえて事実確認作業を行った。
関係先の聴取だけでなく客観事実をも調査し、都内の複数の建設現場を対照取材し工事現場調書とするほか、都の産業廃棄物対策課や環境省の係にも取材確認を行った。複数の建設現場での解体から土地改良工事の現場取材には2ケ月を要した。セメントミルクを使用するSMW工法(原位置土攪拌工法)の現場取材も行った。
そのような取材調査の結果から、N社の産業廃棄物マニフェストと対照する工事内容事実を確認することができ、最終的にはN社並びに豊中市への確認によって、本件土地改良工事は適正に施工されたと判断した。なお校舎はきちんと完成し、校庭も使用できるまでに完工している。
N社の本件土地改良工事では、土壌汚染を1088.63トン(10トントラック116台分)除去(豊中市承認)し、その後に埋設物撤去工事を行い953.1トン(10トントラック95台分※金属くず含め106台分)の埋設物を産業廃棄物処理している。
掘削埋戻工の基準となるスケルトンバケットメッシュ検尺も示され、あわせて人力役務も併用されており、工事調書において客観確認した埋設物撤去工の通常の施工工程が実施されたことが工事完了報告書から分かる。
撤去範囲は、校舎建設部分と体育館建設部分及び舗装撤去部分は3m、その他は1mが設計要求仕様である。※なお工事業者は要求仕様に対し保守的に作業する。(工事調書)
約10トンの廃材・ゴミもきちんと撤去されており、設計仕様範囲において建設工事に支障があるものは残らない。したがって仮に校舎建設に支障があるとするなら、基礎杭工事に伴うということになるが、基礎杭工事(SMW工法)は完了しており、概ね3m上層からの掘削土には、廃棄物の所見は殆どなく、むしろN社の工事の正当性を裏付けるものとなっている。
N社の土地改良工事は平成27年11月末に完了し、校舎建設はF社に移り、平成28年1月より基礎工事が始まる。(産業廃棄物処理法上ゴミの引渡しはなく、ここで区分される。)
ところが3月になって貸付契約では想定しえない埋設物が発生したとの報告がF社より乙(森友学園)になされ、3月14日には近畿財務局と大阪航空局が現地を確認、同月30日には現場写真の撮影報告、翌月11日には敷地内の試掘がF社によって行われ、それらを根拠として近畿財務局は売払いに向け大阪航空局に算定見積を依頼、大阪航空局はそれを受け同月14日付にて想定見積を近畿財務局に提出、近畿財務局は不動産鑑定を取得し、決裁を経て本土地の売払いを6月20日付で行った。
だが、取材班は3.8mの深度を示す試掘写真が1m低く偽装されたことを写真照合によって検証、深度偽装すなわち虚偽との判断を行った。その結果、その後の想定見積、決裁文書、売買契約どれもの根拠が失われた。
また、想定しえない場所から発生したという埋設物混合土の写真は、そのどれもが出所不明であり、中には同じ写真が異なる地点で発生した証拠写真として示され、加えて、基礎杭工事から発生したとされる土に想定されるような埋設物の形跡はなく、むしろN社の工事が正当なものであったことを示すものでしかなかった。
その後の想定見積においては、N社が953.1トン(10トントラック95台分※金属くず含め106台分)の埋設物撤去(汚泥、ガラ、木くず、廃材・ゴミ他)並びに1088.63トン(10トントラック116台分)の土壌汚染除去を行った後であるというのに、撤去前のOA301構造調査のデータを使用し47.1%というありえないごみ混入率を算定に用いたばかりか、十分な試掘調査さえ行わず、3m-3.8mまでに、GL-3mまでの構造調査データを使用し、ありえない2万トンの埋設物が存置されているという計算結果を導き、その撤去に8億円かかると想定した見積を作出した。
売払いに関して鑑定を行った不動産鑑定士の鑑定価格は9億5600万であり、1億3400万は意見価格とされており、不動産鑑定士は、この減価算定は最有効使用の原則から経済合理性を逸脱したものと指摘している。それを示すように売払後わずか1ケ月半後の平成28年8月10日付で乙(森友学園)は13億の不動産鑑定評価書を取得している。したがって、売払い価格には経済合理性がない。
N社の土地改良工事は平成27年11月末に完了しており、建設に支障がある埋設物は撤去されている。すなわち工事要求仕様の範囲は問題なく完工されたと云え、本紙の取材にN社の担当者は、「産業廃棄物マニフェストにおける「管理型建設系混合廃棄物」の内訳は樹脂等です。」と回答している。したがって工事仕様外のところからしか示されたような埋設物の発生はありえず、あればそれはN社の工事責任に帰するが、それは全くされていない。
そこで工事仕様の想定外の場所として3.8mが持ち出され、それを根拠として8億円の値引きが行われたが、先に述べたようにその3.8mを示す試掘穴深度は偽装であり、実際のゴミの層は1.8m(試掘深度3m(粘土層1.2m))しかない。つまり3m以深(この場合OA301記載上の)にゴミはないという音声データや大阪地検特捜部による業者証言「事実と違うことを書かされた」とも一致する。
そうすると報告書作成のわずか3日後の平成28年4月14日に作成された国交省大阪航空局による、8億想定見積の根拠となる数字、いわく3.8m、47.1%の数字が虚偽の記載ということになる。この数字相違は、大阪地検特捜部が公文書改ざんによって指摘した「重要部分ではない」という判断と矛盾し、これが本件「森友 新たなる第三の疑惑」の核心である。
以上(以下余白)