OliveWeekly

波紋広げる橋下徹氏の決起説

「浪速の風雲児」と呼ばれた橋下徹前大阪市長の最近の政治的言動が、永田町に波紋を広げている。国政政党「日本維新の会」の創始者で、安倍晋三首相とも太いパイプを持つ橋下氏だが、2015年末に大阪市長を辞めて政界を引退して以来、本業の弁護士活動やテレビ出演などに専念してきた。

 しかし、ここにきて「政権奪取論 強い野党の作り方」という著書を出版し、野党再編になお執念を燃やす小沢一郎自由党代表とも会談したことで、与野党双方から「自ら国政進出を目指して決起するのでは」(自民幹部)との噂(うわさ)が出始めたからだ。

 永田町の耳目を集めた小沢・橋下会談は11月7日夜、都内のフランス料理店で行われた。旧民進党の元代表で、現在は国民民主党の前原誠司元外相が橋渡ししたもので、同氏周辺は「定期的に会食する間柄の橋下氏に、かねてパイプを持つ小沢氏との会食を打診したら、即座にOKした」と説明する。

 橋下氏は自著の中で「安倍1強の弊害をなくすためには、本当の強い野党の結集が必要」と力説しているが、これは、小沢氏の主張と完全に重なる。橋下氏は文芸春秋11月号への寄稿でも「小沢さんは『強い野党をつくるには権力に執着すべきだ』という信念を貫き、政権交代を実現させている」と熱いエールを送っている。

 小沢氏も以前から橋下氏の行動力や発信力を評価しており、「互いに引きつけ合う関係」(小沢氏側近)でもあった。「小沢・橋下」会談について、小沢氏は記者会見で「7~8年ぶりだが、生臭い話は何もしていない」と苦笑しながらも、「非常に国民の心を捉え、アピールする力を持っており、政治家の非常に大事な要素、資質を備えている人だ」と“政治家・橋下”を高く評価してみせた。

2025年の万博開催が大阪に決まり、喜ぶ松井一郎大阪府知事(前列右から2人目)、世耕弘成経済産業相(同左端)ら=11月23日、パリ
「来夏同日選」での衆院出馬視野?
 もちろん、橋下氏の国政進出には“舞台装置”が必要だ。

 中央政界で「第2与党」とも揶揄(やゆ)されている日本維新の会が足場では「ブームを起こすのは困難」(自民幹部)なため、「自民1強に不満を持つ保守層も引きつけられる新党を立ち上げるしかない」(同)のが実態だ。橋下氏自身も現在の維新について「失敗と言わざるを得ない」と否定的だ。

 首相周辺では来夏の衆参同日選論も浮上しているだけに、小沢氏周辺は「国民民主党の保守グループも巻き込んだ新党旗揚げで無党派層を引きつける」との“橋下新党”を働き掛けているとされる。

 当然、その前提は橋下氏の衆院選出馬だ。「中途半端な野党選挙共闘より、野党の分裂再編による橋下新党の方がはるかにインパクトがある」と読むからだ。

 ただ、橋下氏は日本維新の会代表の松井一郎大阪府知事と共に毎年、首相と菅義偉官房長官との「年末会談」を続けている。11月24日未明(日本時間)には、政府と松井知事らが一体となって誘致を目指してきた2025年国際博覧会(万博)の大阪開催が決定した。

 万博誘致は「橋下氏が言い出しっぺ」でもあり、今後は松井知事と共に安倍政権と協力して開催準備を進めることになる。それだけに、橋下氏が自民党に対峙(たいじ)する新党旗揚げに動けば、首相との親密な関係を壊すことにもなりかねない。

 橋下氏は「(政界復帰は)全くあり得ない」と繰り返す。しかし、08年の大阪府知事選立候補の直前まで「2万%ない」と明言していた過去もある。維新の国会議員からも「橋本氏は必ず中央政界に打って出る」(参院幹部)との声が聞かれる。

 最近の言動が「国政進出のための環境づくりか視聴率稼ぎの“炎上商法”か見極めにくいのも、強(したた)かな橋下流処世術」(自民長老)とみる向きも少なくない。