4月26日、「安保法制違憲訴訟の会」は、昨年9月19日未明に成立した「安保法制」を「違憲」とする訴訟を東京地裁に提起した。
原告数は約500人で、本訴訟には全国で600人を超える弁護士が代理人に名乗りをあげており、今回の提訴は、委任状が3末までに集約された分としての第一次となる。同会は今後、全国の高裁所在地並びに埼玉・神奈川などの大都市がある地裁で順次提訴していく。
訴訟の内容は、差し止め請求と国家賠償請求の二本立てで以下に訴状が公表されている。
自衛隊出動差止め等請求事件・訴状
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求事件・訴状
原告の構成
(1)平和を望む国民・市民
(2)先の太平洋戦争で被害を受けた者とその家族
①原爆を投下された広島・長崎で被爆した者とその家族
②唯一の地上戦により被害を受けた沖縄県民
③東京・大阪など各地で空襲を受けて被害を受けた者及びその家族
④シベリア抑留者、その他戦争により被害を受けた者とその家族
(3)沖縄県を始め日本全国に散在する米軍及び自衛隊の基地周辺の住民
(4)原子力発電所関係者
(5)ジャーナリスト
(6)戦争体制(有事体制)において危険な業務に従事させられる地方公共団体・指定公共機関の労働者、医療従事者、交通・運輸労働者など
(7)憲法研究者
(8)宗教者
(9)教育関係者
(10)女性や子供を持つ親たち
(11)若者
(12)その他の被害者など
※差し止め訴訟は、個々の個別事情に基づいて具体的な権利侵害が説明できる方
国家賠償請求は、差し止め訴訟と併せて行なわれ、第一次提訴は約500人である。
侵害権利は、①平和的生存権②人格権③憲法制定決定権(命名)。
賠償請求は、諸般の事情を考慮し1人10万円とする。
前記のとおり、今後全国で整い次第に順次訴訟が提起される。
伴って原告の増加が予定されており、最終的には1万人を超えると予想されている。
1.加害行為(訴状から抜粋)
内閣は,平成26年7月1日に前記の内容の26・7閣議決定を行い,平成27年5月14日前記の内容の新安保法制法案についての27・5閣議決定を行って,同月15日にこれを国会に提出し,その可決・成立を求めた。
国会は,上記法案の提出を受けて,同年7月16日衆議院において,同年9月19日参議院において,それぞれ新安保法制法案の採決を行い,これを可決した。(なお,内閣は,同月30日新安保法制法を公布し,平成28年3月29日これを施行した。)
これらの新安保法制法の可決・制定に至る内閣,国会の各行為によって,原告らは第3記載のとおりその権利を侵害された。
加害者は、提訴を前に行なわれた20日の安保法制決起集会で、田村洋三弁護士が説明したように「本法制の閣議決定を行なった国務大臣及び国会で議決を行なった国会議員」。
同法(安保関連法)は、本年(2016年)3末に施行された。
訴訟の代理人となっている法曹関係者のなかには元裁判官が三十数名、元検察官も数名いると公表されている。
原告には、憲法学者もおり、厳しく違憲性を批判している。
訴えに関し、政府の国家安全保障局は、「安保関連法は、憲法に合致したもので、国民の命と平和な暮らしを守るために必要不可欠」とのコメントを出した。
本紙は、本訴訟について、「今回の「安保法制違憲訴訟」は、「主権者は国民」であることを宣言し、その権利(基本的人権)の保障を求める一連の行動。時の内閣(発議権はない)が、恣意的に憲法を解釈し、主権者たる国民の承認も経ず、勝手に法を制定することを決して許さない。そういう訴訟提起である。」と評価している。
安倍内閣は、参議院選挙を前に、野党提出の「安保法制廃止法案」を審議せず、ひたすら世論の沈静化に躍起となっているが、説明責任は全く果たされていない。
ここで私たちが憲法上持っている基本的人権について記しておきたい。
●基本的人権って、どんなもの
基本的人権は、人間が生まれながらにもっている、基本的な権利のこと
どんな権利を基本的人権にふくめるかは、時代とともに変わってきている
日本国憲法が認めている基本的な権利は、以下の5種類に大きく分けられる
1.自由権:個人の生活が、国や都道府県・市町村によって、不当に口出しされた り、害をあたえられたりしない権利。
①思想や良心をもつ自由
②宗教を信仰する自由、信仰しない自由
③学問をする自由
④奴隷のような扱いを 受けない自由
1.自由権-2
⑤集会を開く自由、団体をつくる自由
⑥意見や思想を発表する自由、本や雑誌を出版する自由
⑦住む自由、引っ越しをする自由
⑧職業を選ぶ自由
⑨外国に移住する自由、日本国籍を離れる自由など。
2.平等権:ある人の行いに法律があてはめられるとき、その人の人種・信条(信じていること)・性別・社会的身分(会社・役所での役職など)・門地(家柄)などによって差別されない権利。「法のもとの平等」ともいう。
3.社会権:国に対し、生活の保障を求める権利
①健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)
②教育を受ける権利
③働く機会をあたえることを要求する権利
④労働組合をつくる権利、要求を実現するため使用者側と団体交渉 をする権利、ストライキ等の団体行動を行う権利(労働三権)
4.参政権:国の政治に参加する権利
①国会・地方議会の議員、都道府県知事、 市町村長を選挙する権利、立候補する権利
②最高裁判所の裁判官を審査する権利
③憲法改正の国民投票に参加する権利 ←
④条例制定・改正・廃止、地方議会解散、都道府県知事・市町村長をやめさせることを要求する権利
5.国務請求権:自分の利益のために、国が積極的に行動するよう要求する権利。
「受益権」ともいう。
①権利の保障を要求する権利 ←
②裁判を開いてくれるよう要求する権利 ←
③国や地方公共団体に損害賠償 を要求する権利など ←
安保法制は、訴状でも述べられているように、本法制定に関し創出された新3要件の核心である「存立危機事態」の法的定義が不明確であるという立法上の問題も有している。
これは、既に昨年の国会審議において論じられたことであるが、「黒を白と言いくるめる」ためにする論理からゆえに本法制が持つ難点であり、どうとでも国家安全保障局が差配できる解釈の法などそもそも法の根本原理を逸脱しているといわざるを得ない。
加えて、法的安定性を欠くことが行政権の行使を行なう政府にとって、政策の実施の度に争議が生じ、とりとめがなくなることは明白なものとなっている。
安倍内閣は、「切れ目がない」というが、それ自体が「この法律の目論見の悪質性」を物語っており、彼ら加害者たちが故意に憲法96条を潜脱し、この国を「戦争ができる国」に造り変えんとするものであることは明らかである。
本紙は、一連の加害者らの行動は上記のように憲法96条潜脱によって、国民一人一人が有する基本的人権を侵害するものであり、そのような者たちがそもそも国務大臣や国会議員の地位にあることさえ許されないことであると指摘し、総選挙においてもその悪質性を主張して行きたい。